はじめに

東アジア総合研究センター長・文化情報学部教授 鄭 躍軍

 日本、韓国、中国を主要国とした東アジアは、歴史的に漢字文化や儒教思想を共有していた。しかし、明治維新以降は各国が異なる道を歩み始め、今日では各国のものの考え方、見方などに大きな隔たりが顕在化している。これにより、東アジア地域における文化交流や経済協力のみならず、様々な国際問題に対しても足並みが揃わない場面がよく見られている。また、海外に進出する各国の企業が年々増えているが、その中で様々なトラブルも起きている。これはそれぞれの企業文化と各国固有の文化との衝突が発生してしまうためである。さらに、地球規模の環境問題がますます深刻化しているが、国際会議において各国は非難し合ったような場面が記憶に新しい。これは各国の異なる社会情勢や経済状況から生まれたものである。したがって、東アジア地域にとって、国家間の様々な差異を直視した上で本格的な国際協力体制を模索するための基礎情報が重要となっている。

 東アジア研究にとって、相手国への先入観を払拭してそれぞれの立場を客観的に理解し合うことが大切である。言い換えれば、現地調査により各国の文化及び社会情勢が時代とともにどう変容していったのかを解明するための各種データを科学的に集積していくことで、相互理解を促すための情報を積極的に発信することが各方面から求められている。

 同志社大学東アジア総合研究センターは、現地調査(フィールドワーク)と「データを中心にものを語る」という2つの研究理念を基に、東アジア地域の文化・社会・経済・環境に関する様々な情報を発信している。現地調査は、21世紀初頭から立ち上げ、日本、韓国と中国を対象に国民性、価値観、環境問題などのテーマを取り上げ、継続している。このたび、これまで蓄積された調査データがより一層活用されることを願い、「国際比較調査」サイトを立ち上げた。主として「東アジアの文化・生活・環境に関する意識調査」(2010~2011)、「東アジア四都市の環境意識調査」(2005~2006)、そして「中国人の国民性調査」(2001~2003)の結果を公表している。

 一連の調査研究は、長年にわたって各国の調査環境に適した統計的社会調査方法の開発に原点がある。本研究センターは、国際比較研究の視点からデータの設計・収集・分析を川の流れのように一貫して考えるデータ・サイエンスの方法論を実践しながら事象間の「関連性」や「因果関係」に関する有意義な情報を掘り出すことに努めていく所存である。

 なお、本サイトに公表したデータの一部は、文部科学省科学研究費補助金・基盤研究(A)(一般)No.21241015(2009年度~2011年度)と基盤研究(B)(海外)No.16402002(2005年 ~2007年度)の成果のうち、単純集計及び関連した成果を紹介するものである。今後、新たな分析結果を順次公表する予定である。

鄭 躍軍

東アジア総合研究センター長・文化情報学部教授